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日本酒:超音波でお酒を美味しく

超音波が食品分野で便利に活用されています。

野菜の超音波洗浄、超音波カッター、最近では超音波熟成肉など用途は様々です。

今回は日本酒の超音波熟成について解説していきます。

 

私が超音波熟成に興味を持ったのは、「うまい酒はなぜうまい:さらば悪酔い二日酔いの科学」朝倉俊博著によるものです。光文社カッパ・サイエンス1994.6.1

日本酒好きのカメラマンが、専門の知識もないのに超音波熟成で特許を取るまでの物語です。

そのほか、超音波熟成は漫画でも「決してマネしないでください」(2)蛇蔵著(講談社モーニングKC2015.6.23)に取り上げられています。

また、ボトルをそのまま入れるタイプのワイン熟成機も市販されています。

 

目次

 

◆熟成とは

では、そもそも熟成のメカニズムはどのようなものなのかでしょうか。

通常の熟成による変化は次のようなことになります。

・温度

30℃以上で急激に進み、-5℃で熟成は止まります。30℃以上だと酒質にもよりますが、バランスの悪い熟成になってしまいます。室温で20℃くらいが安定して熟成できます。

・時間

秋になると酒屋さんの店頭に「秋上がり」の文字を見かけたことはありませんか?
秋上がりに厳密な定義はなく、春搾られて貯蔵された酒が夏を越して秋になり、まろやかに美味しくなった酒のことを秋上がりした酒といいます。春から秋に半年経過しているのです。

このように熟成には時間が必要になります。

(長期熟成酒とは厳密な規定はありませんが、通常3年以上熟成したものをいいます。

古酒とは、毎年10月から新酒造年度になるのですが、前の酒造年度に製造された日本酒を古酒と分類します。通常1年で飲み切る量を生産するので、それより長くなったものを古酒として分類したものです。製造して1年以上のもの全て古酒になります)

・香りの変化

新酒の華やかでフルーティーな香りから、黒糖やカラメルのような香りに変化していきます。

・色の変化

熟成による色の変化は、糖とアミノ酸による反応(メイラード反応)によって生成されます。
時間の経過とともに淡黄色、瑠璃色、褐色へと変化していきます。

・味の変化

すっきりした味から、複雑でコクのある味へ変化します。

・口当たりの変化

新酒の時の角の立つ荒々しさが消え、まろやかな口当たりになります。
熟成した酒の酸味,甘味は調和がとれた味わいになり、とろりとしてやわらかい、余韻が続くまろやかな味になります。

今回は、口当たり部分を超音波で熟成させて変化させてみようというのが趣旨です。

 

◆熟成のメカニズム

アルコールと水分子は混合されるとアルコール水溶液になります。
混合された初期では水とALCそれぞれ分離した状態です。
ALC分子がむき出しの状態になっているのでALCの刺激臭が強いです。
時間がたつにつれ水分子、ALC分子それぞれの集団が崩れ、ALC分子の周りに水分子が取りついて、ALC分子を包み込む状態になります。「クラスタ」と呼ばれる分子集団を形成します。
クラスタALC分子1個の周りを数個の水分子が取り囲み、アルコール刺激の角が取れたまろやかな口当たりになります。

酒が熟成する過程で、角が取れてまろやかな味わいになるのはこのような熟成のメカニズムがはたらいています。

 

◆超音波洗浄器の有効活用

写真:シチズン超音波洗浄機SWS510

40000Hzの超音波洗浄器でおおよそ90倍の効果(1日で90日寝かせた効果)が期待されます。

40000Hzから45000Hzの振動であれば、どのような超音波装置でも効果はほぼ同じです

超音波で強制的に分子を振動させることで、水分子とアルコール分子が短時間で均一に混じり合い、熟成した酒と同じ状態に変化するということです。

 

◆実際にやってみよう

実際に超音波洗浄機を使って、超音波熟成を試す方法は、

1.ガラスのコップ2つ用意して、一つは超音波洗浄機に入れて熟成させ、一つはそのままにして、熟成完了後に飲み比べてください。

2.日本酒を入れ、通常通りスイッチオンでOKです。

どのメーカーも20分程度の時間超音波を当てています。

3.スイッチが切れれば熟成完了です。飲み比べてみてください。

味を比べてみましょう

20分ですと、90倍として30時間熟成させた味ということになります。

長時間超音波を当てた方がより熟成は進み、変化が明確になります。

 

注意:プラスチックや金属だと、振動を伝えきれなかったり、金属を傷つけてしまう恐れがあるので、ガラス製のコップを使用してください。

アクセサリーや眼鏡洗浄用の一般的な超音波洗浄装置(40000Hz前後)で長時間使える装置(タイマーなし、または長いタイマー)なら5,000円未満で手に入ります。果実酒製造できる酒類の専用装置(ボトルのまま使用可能)も1万円未満で販売されています。

(超音波洗浄器は様々な用途で使えます。アクセサリー、時計、眼鏡、小物、入れ歯の洗浄はもともとの用途です)

 

◆熟成に向く日本酒のタイプ

吟醸タイプとはすっきりきれいな味(吟醸酒、生酒)

・濃醇タイプとはコクのある味(純米酒本醸造酒

濃醇タイプが超音波熟成に向きます。
また、高級酒よりも安酒のほうが効果大です。

安い酒をまろやかな高級酒の味わいにすることが一番の目的です。

 

ウイスキーや乙類焼酎でも効果あります。

ワインでも若いワインなら同じような効果がありますが、製造から3年経ったワインには効果はあまり感じませんでした。

飲んで固く感じるようなワインなら、角が取れてまるくなります。ボジョレーヌーボーは新酒ですが、生産年により効果の幅があります。

ワインの熟成を調べるときは、「ワインのキー」を使うと飲み頃になる熟成する年がわかります。

写真:ワインのキー「クレ・デ・ヴァン」トラベルモデル プジョー

1秒つければ1年分、10秒つければ10年分熟成した味になります。

一度変わったら、元には戻せません。

 

◆注意事項

ワイン・ウイスキー・日本酒などの超音波熟成の注意点
たしかに、お酒類を超音波にかけると若いアルコールは角が取れ、まろやかになりますが、
試す前に下記のご理解は必要です。

超音波処理を行うと味わいは変わり、2度と元に戻せません。(基本的には新鮮な風味は飛びます)
ボトルそれぞれ固有の熟成や風味を味わいたい方にはお勧めできません。
カップ酒やボジョレーなどを若いアルコールとして楽しまれいる方にはお勧めできません。
超音波振動はアルコール分子の反応を早めるものであり、物質を変化/変容させる働きはありません。味わいが変わっても成分そのものは変わらず、添加物も消えるわけではありません。

超音波で処理すると分子のぶつかり合いにより温度は上昇し、空気に触れる面積・量が増えるため、一般的なデカンテーションよりも酸化は進みますので、超音波処理後は早めに消費されることをお勧めします。

 

まとめ

超音波で日本酒を美味しくする方法でした。

身近な道具で酒がおいしくなる、おもしろい実験でした。

みなさんもワンカップ酒でチャレンジしてみてください。